チーズという偉大な存在について
たんぱく質が豊富なチーズ
世界のチーズの歴史
さて皆さん、チーズはいつ頃生まれたのかをご存知でしょうか?
1000年くらい昔?意外と100年くらい?
なんと、紀元前6500年くらいから、西アジア(メソポタミア)ではチーズが製造されていたことが発掘によって明らかにされています。
また、イタリアやオランダ、パキスタンなどでも紀元前3000年くらいからチーズが作られていたようです。
文字による記録では、ギリシャの詩人ホメロスによる『オデュッセイア』(紀元前600年~)に、羊・山羊の乳からチーズをつくる光景が描かれています。ということは、現代まで、チーズには8000年以上も亘る歴史があるんですね、驚きです。
チーズの歴史をたどると、その時々の人々の暮らしが垣間見られることでしょう。ロマンを感じます。
日本のチーズの歴史
日本ではいつごろからチーズがつくられていたのでしょう。
西アジアのメソポタミアで生まれたチーズ文化は、シルクロードを経て東アジアへも伝播します。
唐を代表とする古代中国へ、そして海を越えて日本へももたらされました。時代は奈良・平安時代。その頃に存在していた「蘇」という食べものが、日本でのチーズの祖、と推測されます。
また、蘇からつくられる「醍醐」という乳製品も、チーズ様のものではないか?との説も。どちらも不明な点が多く、これ、という結論には至ってはいません。
しかし、醍醐が五味の最上級を意味する「醍醐味」ということばとなったように、はるか昔から「チーズはおいしいもの」として認識されていたようです。
ただし、日本において一時期さかんだった古代乳文化は、その王朝とともに次第に衰退していきます。
その後しばらく乳食文化から離れ、魚・大豆・コメ食文化が発展・伝承されていき、再び歴史にチーズが登場するのが明治期と昭和期になってからのこと。
現在では、欧米の技術を導入しながらも、個性豊かで日本の気候風土に合ったチーズを追求する造り手がどんどん増えています。
“国産チーズ”“日本産チーズ”の実力はすでに各所で認められ、いずれ欧米に追いつき、追い越すのではないかと謂われています。
ひとことで「チーズ」と言うけれど・・・
チーズにもいろいろ
ナチュラルチーズとプロセスチーズ
さて、世のチーズには数え切れないほどの種類があるのですが、最低限知っておいていただきたい、大きな違いがあります。
それは、ナチュラルチーズとプロセスチーズの違い。
日本では、この違いは食品衛生法(昭和22年法律233号)に基づく乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(昭和26年厚生省令第52号。以下「乳等省令」という。)にも明確に記載されています。
「ナチュラルチーズとは、乳、バターミルク(バターを製造する際に生じた脂肪粒以外の部分をいう。以下に同じ。)クリームまたはこれらを混合したもののほとんど全て又は一部たんぱく質を酵素その他の凝固剤により凝固させた凝乳から乳清の一部を除去したもの又はこれらを熟成したもの」・・・・・・簡単に言うと、牛や山羊や羊などの乳に、乳酸菌や凝乳酵素を加えて凝固させ、ホエイ(乳清)を分離したもの。熟成させないフレッシュタイプのものや、乳酸菌やカビなどの微生物の力によって発酵・熟成させたものとがあります。
「プロセスチーズとは、ナチュラルチーズを粉砕し、加熱溶融し、乳化したもの」。
ナチュラルチーズを細かくして“溶融塩”を加えて高温加熱し、溶けたたんぱく質を“乳化剤”として水と脂肪を乳化させたもののこと。高温加熱していることにより、チーズ中の微生物はほとんど死滅し、酵素も失活するので、保存性に優れていることが特徴です。
つまり、プロセスチーズは保存を目的に、ナチュラルチーズを再加工したものなんですね。製造の際のナチュラルチーズは、オーストラリアやニュージーランドなどからの輸入チーズがほとんど。普段何気なくスーパーで購入しているチーズの表示をみてみてください。
「種類別」の欄に「プロセスチーズ」とあるはずです。
ちなみに私がつくっているのは、ナチュラルチーズです!
ナチュラルチーズの種類
ナチュラルチーズにも、数え切れないほどの種類があるのですが、実は国内では明確な区分ができていません。
参考にされているのがフランス式の分類法なのですが、ざっくりと、
・フレッシュチーズ
・白カビチーズ
・ウォッシュチーズ
・山羊乳製チーズ(シェーブル)
・ブルーチーズ
・非加熱圧搾チーズ
・加熱圧搾チーズ
・プロセスチーズ
に分けられ、さらにそれぞれ産地や製法などで細分化されています。
これ以外にも、長期熟成タイプのチーズには、水分量に応じてセミハード、ハードのふたつの種類があります。
乳の種類
使われる乳にもさまざまな種類があり、それぞれに特性があります。
もっとも一般的なのは牛の乳。牛にもホルスタインやジャージー、ブラウンスイスなどたくさんの品種があって、それぞれ乳固形分量が違うので、チーズづくりにも影響しています。
他にも、山羊、羊、水牛、らくだ、馬、ヤクなどの乳からもチーズがつくられています。食べ比べてみたくなりますね。
副産物
チーズには製造時に必ずでる副産物があります。それが、ホエイ(乳清)。
生乳から乳固形分を分離させた後の液体部分がホエイで、近年の研究によって豊富で良質なたんぱく質がたっぷり含まれていることが明らかになっています。通常、ホエイは廃棄されることが多いのですが、正直それはあまりにももったいない。
ホエイプロテインとして粉末化したり、リコッタチーズをつくったりする生産者も増えてきているので、ぜひ、ホエイ製品にも注目してみてくださいね。
チーズって、すごい。
チーズの効果は絶大
ゆたかな栄養成分
チーズの原料は、そう、乳です。そもそも乳は、新生児を育てるためにでるもの。
乳には発育に必要な成分がバランスよく含まれているので、その多くが移行しているチーズにも、豊かな栄養成分が含まれているのです。
特に、人間の身体に必要な必須アミノ酸を含むたんぱく質、脂肪、カルシウムが一度にとれる食品、ということで、食品としての優秀さは卵に匹敵するほど。
ただし、ビタミンCと食物繊維だけが欠けているので、野菜や果物などと一緒に食べると効果的です。
チーズってすごいですね。
発酵、熟成を楽しめる
チーズのもうひとつのすごいところが、自分の手で育てられること。
ナチュラルチーズは、生きている食べもの。だから、時間の経過とともに、見た目や食感、味、香りが変化します。
それぞれのチーズで食べ頃が違うのはそのため。購入してすぐ食べるだけでなく、自分の好みの食べ頃になるまで、冷蔵庫で熟成を進め、その変化の過程も楽しむのが、チーズの楽しみ方のひとつなのです。
アレンジしやすい
さらに言うと、チーズほど普段の食生活に取り入れやすいものはないと言っても過言ではありません。
特に現在のチーズ市場は、プロセスチーズにもナチュラルチーズにも多くの種類があり、そのまま食べられるものから、とろけるチーズや塗るチーズなど、調理法や料理に合わせてセレクトできるものまで、どんなアレンジにも対応してくれるラインナップになっています。
ワインやビール、珈琲など、飲みものとの合わせ方も無限大。少しずつ試して、自分のお気に入りのカップリングを見つけたいですね。
自分で作ることもできる
探求心の強い方に試していただきたいのが、手作りチーズ。実は酸凝固のフレッシュタイプのチーズは自分でつくることもできるのです。
ただし、市販の飲用乳は超高温殺菌法が使われていてチーズ製造には不向きなので、低温殺菌乳を使うようにしましょう。
とにかく毎日の食卓におすすめしたい
このように、古~い歴史を持つチーズですが、とっても気さくに普段の食生活に取り入れられるのが最大の魅力。
新生児から年配の方まで老若男女を問わずお薦めしたいのですが、特にシニア世代に不足しがちな栄養素がたっぷり含まれていて、さらに食べやすいとあって、ぜひ冷蔵庫に常備していただきたい食品なのです。
参考文献
『チーズの教本 2018「チーズプロフェッショナル」のための教科書』NPO法人チーズプロフェッショナル協会