【人生100年時代、趣味を楽しむ】ガイドブックには載らない、癒やしの香港。雑踏の先にある、広い空と豊かな緑を訪ねて。

若い人もご高齢の方も、この数年、香港を訪ねる日本人旅行者数が増加し続けています。日本と香港を結ぶ航空会社の路線拡大もあり、地方からの利便性が増したことも大きな理由のひとつとなっています。
2019/09/03
(c)chie ikegami

実は、香港には自然がいっぱい

香港は東京から飛行時間約4時間半。

 

週末を利用して遊びに行ける身近な観光都市として知られています。

 

華やかでにぎやか、何を食べても美味しく、移動がしやすく治安もよい大都会。

 

誰もが知るそれら要素は間違いなく香港の最たる魅力。

 

けれども、その大都会からちょっと先へ進んだだけで、同じくらい豊かな魅力が現れることはあまり知られていません。

 

静かな波が寄せる美しいビーチ、おだやかな色の花々が自生する島、鳥がさえずる緑あふれる散歩道。

 

地元の人たちがずっと大切に守ってきた多くの自然と広がるのどかな景色もまた、身近で香港らしさのひとつなのです。

波のおだやかなビーチは週末になると多くの家族連れでにぎわう  (c)chie ikegami

香港全域に点在する自然保護域「郊野公園」

そのようなスポットを始め、香港に自然が多いことはガイドブック等のメディアではほとんど紹介されることがないため、香港に到着するときに降下を始めた飛行機の窓を覗いて、「あれ?」と思う方も多いよう。

 

橋や道路など人工物はあるものの、大半はこんもりとした山が連なり、周囲はポツポツと小舟が浮かぶ海。

 

実は、香港には政府によって自然保護域として郊野公園(カントリーパーク)が多数制定されていて、その総面積は香港全体の40パーセントにもなるのです。

 

それゆえ、トレッキングや山登り、海水浴など、週末には自然に溶け込んでのレジャーを楽しむ香港人も多いというのも、また知られざる一面かもしれません。

青空と青い海に囲まれて花々の色も鮮やかさを増すかのよう  (c)chie ikegami

摩天楼から1時間弱、手入れの行き届いた白砂ビーチでのんびりと

さて、せっかく自然がごく身近にある香港ですから、街遊びを楽しむ合間に、雑踏を離れてちょっとそこまで癒やされに行ってみませんか? というのが、近年私が提案し続けている香港の楽しみ方です。

 

滞在中のどこかで半日、公共の交通機関に揺られて海へ、山へ。

 

たとえば、香港島南東部にある石澳(セッオー)という村は、小さな集落の先に、手入れの行き届いた白砂のビーチに小さな子供でも安心して水遊びができる遠浅の海が広がります。

 

旅行者がいきなり海水浴というのは難しいかもしれませんが、周辺は山の緑に囲まれ、不要な音のないビーチでは泳がずともぼんやりと遠くを眺めているだけで心落ち着く時が過ごせると思います。

 

周辺にある小さな飲食店で食事をテイクアウトしたり、バスに乗る前に街の中で食料を買って、ビーチでゆっくり食べるのもいいものです。

白砂のビーチにカラフルなパラソル。インスタ映えも充分  (c)chie ikegami

小さな村にあるリゾート感と生活感のミックス アンド マッチ

小さくキュッとまとまった石澳村そのものも魅力的で、今では作れる職人さんもいないのでは?と思えるような凝ったデザインの窓枠を施した家、海のそばらしくビビッドな色に塗られた外壁の家、路地裏のサーフボードが置かれた家の軒先ではネコが昼寝をしていて、軒先には洗濯物が風にひるがえって……というような、リゾート感と生活感とが良い具合に混在しています。

 

そんな村を見守るのは1890年代に落成した天后廟。

 

海を守る女神が祀られたこの廟は、香港三級歷史建築として保護されています。

 

また、来るとき帰るときに利用するバスターミナルの建物は、1955年にできたものながら、そのデザイン性と、バス運行職員が寝起きしていたという宿舎を兼ねた構造に、香港二級歴史建築となっています。

保護壁の内は当時のままの木造で、お線香の煙で燻された柱や梁が黒く輝く  (c)chie ikegami

歩いて行ける近くの島で“香港のはしっこ”を感じる

石澳村から15分ほど歩いた海の先にあるのが、大頭洲(タータウジャウ)という岩でできた小島。

 

遠目からは分からないけれど、行ってみるときちんと周回できるよう歩道が整備され、道々には手すりも設けられています。

 

島の東側には地殻変動によって隆起した独特の地層が壁を作るように並び、島の中央には海風によって風化して動物や人の手のように見える奇石が点在しています。

 

写真を撮りながらのんびり歩いても30分かからず到達した島の頂上から見る景色は、キラキラと輝く細かな波を立てる南シナ海。わずかな移動時間ながら、香港のはしっこに来たという特別感に包まれること間違いありません。

人が横たわるような形をした大頭洲。山頂からは山間に広がる石澳村がよく見える  (c)chie ikegami
(c)chie ikegami

フェリーの往来も頻繁。島ならではの歴史と和みもすぐそこに

世界的金融街でもある香港島の中環(セントラル)にはフェリー乗り場があり、そこから船に乗れば主な離島にも簡単に行くことができます。

 

高速フェリーで40分ほどで到着する大嶼山(ランタオ島)の梅窩(ムイオー)という地域は、フェリー乗り場の近くにビーチがあり、また、小さな町を抜けて進んで行く先に広がるのは、遠くに山の緑が連なる中に平屋の家屋が点在し、なんともゆるやかな風景。

 

石畳の道を道標のとおりにのんびり歩いていくと、その昔、銀鉱石の採掘で活気あふれたという集落へつながります。

銀礦灣泳灘(シルバーマインビーチ)。朝夕には地元の人たちが散歩をしている  (c)chie ikegami

緑の中を落ちる滝。細かな水しぶきが肌に散る

400年前からその集落を見守る神様をまつる廟にお参りしてから、さらに緑の奥へと足を進めると、サーサーと優しく音を立てて水が流れ落ちる滝「銀礦瀑布」が現れます。

 

岩場を通って滝の間近まで行くことができ、顔に当たる細かく柔らかな水しぶきはマイナスイオンをたっぷり。

 

今は衰退してしまったものの、水資源が豊かなことからもともとは米作りも盛んだったという地域の歴史もしぶきに感じられるようで、岩場に座っての休憩は癒やしと同時に、教科書には載らない香港のあゆみに思いを馳せるひとときでもあります。

 

もし余裕があれば、さらに坂道を5分ほど上ると、1910年に採掘が始まった銀鉱穴跡があり、その穴の内部にツルハシを振るったあとが無数に見ることができます。

天后廟と銀礦瀑布、どちらも集落の人々が手入れをし大切に守ってきた  (c)chie ikegami
(c)chie ikegami

癒やしと絶景スポットをもっと知りたい方に

もし香港滞在が土日を含むようでしたら、近場でありながら船の運航の都合で週末にしか行くことができない島や、乗り合い船で行く無人島などに足を運ぶこともできるでしょう。

 

週末にはそういうスポットを目指す地元の人たちも多いため、どこも活気づいていて身振り手振りで行きたい場所さえ伝えれば、船に乗ることもさほど難しいことではありません。

 

今回は具体的な場所を2箇所ご紹介しましたが、これらを含め少し足を伸ばせば街とは違うときめきに出会えるスポット57箇所を『空と緑のおもてなし 香港癒やしの半日旅』(誠文堂新光社刊)という本にまとめました。

 

初めて行っても誰もが懐かしさに包まれる漁村、貴重な歴史的建造物の集合体でありながら市民生活を支える現役の貯水施設、トビハゼが顔を出す干潟に落ちる香港一ドラマチックな夕陽など、アクセスを含めたデータとともにご案内しています。

『空と緑のおもてなし 香港癒やしの半日旅』(誠文堂新光社)

ひと味ちがう体験を旅に加えて

いつもの香港にプラスαで楽しむ癒やしの香港、買う・食べるだけではない、「こんなところへ行ったという」というひと味違う体験を加えることが容易にできるのも、コンパクトかつ公共交通機関が発達した香港ならでは。

 

旅の経験を重ねたシニアの旅、好奇心旺盛な女性同士の旅、語らいを多く持ちたい親娘旅、旅先での出会いをかみしめたい一人旅、様々な旅のシチュエーションに、ちょっとだけ特別感のある“香港での遠足”をぜひプラスしてみてください。