なぜ今、『転職本』がブームなのか?
転職関連の書籍が人気
ブームの火付け役になったのが、『このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法』(北野唯我・ダイヤモンド社)という本です。
この本の中味については、後ほど詳しく紹介しますが、なぜ多くの会社員が「転職」を考えるようになってきたのでしょうか?
それはズバリ、「人生の寿命がどんどん長くなり、会社の寿命を遥かに上回る」時代になってきたからです。
世の中の変化が早く、グローバル競争の時代になって、日本の東証一部上場企業の、歴史ある大企業でさえも、一生安泰と言えるような企業は皆無になっているのです。
液晶技術で世界をリードしていたシャープは、あっという間に倒産の危機を迎え、大幅なリストラを経て、台湾資本の傘下に入ってしまいました。
東芝も不正会計問題によって、大規模なリストラを余儀なくされています。
不正会計による企業消滅と言えば、バブル崩壊後に「飛ばし問題」で1997年に自主廃業に追い込まれた山一證券が思い出されます。
かつて「会社の寿命は30年」と言われていましたが(『会社の寿命―盛者必衰の理』(日経ビジネス編・新潮文庫)を参照)、情報革命によりデジタル化が進んだグローバル社会においては、どんなに強固なビジネスモデルといえども、とても30年は持ちません。最も長く持っても10年ではないでしょうか。
このように、会社の寿命はどんどん短く、不透明になってきているのに、会社員、すなわち人間の寿命は逆にどんどん延びてきて、ついに「人生100年時代」を迎えるに至りました。
かつて人生70年の時代は、定年が55歳で、定年後の余生は15年ということで、日本企業では終身雇用制度のもとで、誰もが1社に勤め上げて定年を迎え、あとは退職金と年金で悠々自適の隠居生活という人生設計を描きました。
人生100年時代。崩壊する「定年後(老後)の人生設計」
それが、人生80年になると、定年は60歳に延び、さらに5年間の定年再雇用を経て、65歳で引退、その後の余生が15年という人生設計に変わりました。
このあたりから、みんながハッピーな老後というシナリオが崩れ始めます。
まず、企業が中高年者の人件費負担に耐えられなくなり、年功序列の賃金体系が崩れ始めます。55歳の「役職定年」という制度で、ポストを若い人に譲ることによって、人件費をダウンさせました。本来なら55歳で会社からいなくなっていた人たちなので、会社に残るならやむを得ない、ということです。
次に、60歳定年として雇用関係をいったん清算し、さらに65歳まで会社に残る中高年社員については、雇用期間1年の契約社員(非正規社員)として、再雇用するという形態を取ることにしました。
ここで、会社員の側からは、55歳と60歳で2回も賃金を下げられ、かつやりがいのあるラインの管理職を外され、場合によってはかつての部下が上司になるなど、理不尽と感じる処遇に転落しました。
こうした光景が多くの企業の内部で見られ、中高年の「うつ病」が増加したり、逆に中高年を使う年下の上司の方が「うつ病」になったり、という問題が見られるようになりました。
またこのような人事制度改革の中で、年功序列に代わって導入された「成果報酬型」の賃金制度もうまく運用できている企業は極めて少ないと言われています。
評価する側も評価される側も、充分なスキルがないままに、新制度を導入してしまったためです。
「人生100年時代」の到来で、「転職」を軸にしたキャリア形成に
「人生100年時代」の到来を強く印象付けたのが、リンダ・グラットン教授(ロンドンビジネススクール)らが書いた『LIFE SHIFT(ライフシフト)100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットンほか・東洋経済新報社)という本です。
さらに、80歳を超えてスマホのアプリ開発で活躍する若宮正子さんの著書『60歳を過ぎると人生はどんどんおもしろくなります。』(若宮正子・新潮社)や私が昨年、出版した『定年後不安 人生100年時代の生き方』(大杉潤・角川新書)なども大きな反響を呼びました。
働き方改革による多様化
以上のような管理職の状況を、会社の中で見ていた若い社員が、このままこの会社にいて幸せな将来が描けるだろうかと不安になって、誰もが「転職」を一度は考えるようになってきているのです。
どうせ会社の寿命が、自分たちの職業人生の寿命よりも短いのであれば、そもそも終身雇用を念頭に置いて、1社での勤務を考えること自体がナンセンスになります。
それなら最初から、自らのキャリアのステップアップを「転職」を前提にして考えておくほうが合理的ではないか、ということです。
また結果的に「転職」をしなかった場合でも、「いつでも転職できる」状態にしている社員の方が、仕事で成果を出しやすく、会社に依存しない精神状態で勤務できるためにストレスも少なくて「うつ病」とも無縁でいられる、ということになっています。
次回は、「転職」を前提としたキャリアアップを考える際に、どのような思考法でいけばいいのか、推薦する『転職本』の中味を具体的に見ていくことにしましょう。