「講師」のイメージトレーニングをしよう
これまで会社で、会議の司会進行やプレゼンテーションを行なった経験はあっても、初めて会う大勢の人を前にして話すという経験は、したことがない人がほとんどでしょう。
豊富な経験を積んできた人でも、緊張してあがってしまいます。私の場合もそうでした。
会社に勤めていた頃は、会議の司会をしたり、多くの関係者にプレゼンテーションを行なった経験が何度もありました。
緊張するといっても、同じ社内の同僚が聞き手ですから、はじまってしまえばいつもの自分で話すことができます。
しかし、講師となると別でした。
聞き手の方々は、その日に初めてお会いする方ばかりであり、しかも全員の方が何かを得ることを期待しているのです。
当たり前ですが。ここでは、私が講師デビューした頃にいろいろと経験したことを、これから講師デビューするあなたの参考になると考えお伝えします。
この私の経験を参考にして、あなた自身でイメージトレーニングしてみてください。事前にイメージトレーニングをしておくことは、必ずその時に役に立ちます。
① 演台に立ったとき
講師のイメージトレーニング
私が、講師として初めてマイクのある演台に立ったときは、あるNPO団体でコーチングセミナーを行った日でした。
参加者は20人ほどでした。ほとんどの方がビジネスマンでした。まず司会者の方が私を紹介してくれて、いよいよ受講者の前に出ていきました。
初めて見る方々の真剣な視線が、あちこちから刺さるように注がれていることを感じて、一瞬たじろいだことを覚えています。
「この講師はどんな人だろう?」というような好奇の眼でたくさんの人から見られていたことからすっかり緊張してしまい、数秒間、第一声が出てこなかったのです。
頭の中では、こう言わなくてはいけないとわかってはいるのですが、「え~・・・」と言ったまま、第一声として言葉が出てこないのです。
その間じゅう、真正面の参加者の方の眼をじっと見つめていたように思います。
「何を言うのか、興味津々の眼だな」と感じたことを今でも覚えています。
自分というものを、これだけの人間から一斉に見られるということは、こういうことなんだな、と思いました。
それで数秒間が過ぎてしまったのです。とても長い時間でした。
ですから、初めて講師として立つ場合には、私のような状態に陥らないためにも、ぜひイメージトレーニングをしておくことをおすすめします。
イメージトレーニングは、大勢の参加者の眼が自分に注がれている場に立っている状態を思い浮かべてください。
そして、参加者の眼はいずれも好意的にあなたを見ているという状態です。この場合、好意的な眼で見ていてくれることをイメージすることで気持ちが動揺しないで言葉が出てくるようになります。
② 緊張しない第一声の発し方
初めての講師デビューで、こんな失敗をしてしまったことから、次の時には、第一声を説明資料の欄外に書いておきました。別にわざわざ書かなくてもいいような文言です。
それは「皆さん、こんにちは。」でした。
たったこれだけですが、いざとなると頭が真っ白になって、また言葉が出てこなくなると怖いと思ったので、必ず見て確認して言葉を出そうと考えました。
ほんの一口の文言ですが、これがよどみなく口から出れば、その後の言葉がスムーズにつながって出てくるのです。
出だしさえうまくいけば、あらかじめ用意していた話の内容は、ちゃんと手元に資料として置いてあるので忘れれば見ればいいだけのことです。ここまでくれば、もう心配はありません。
この出だしの第一声は、「本日はありがとうございます」でもいいですし、「今、司会の方よりご紹介して頂きました○○と申します」でもいいです。
あなたが一番言いやすい言葉にすればいいのです。
ただ、凝ったことを言おうと思ったり、ふだん使ってないような言葉を言おうとすると、咄嗟に口から出てきませんので注意したほうがよいでしょう。
説明資料の欄外に目立つように書いておくようにしたらいいと思います。
これも「目立つ」ように書くのが重要で、焦ってしまうと目の前に書いてあっても探してしまうという事態になるのです。
ですから、第一声というのは、いつも使いなれている言葉でいいのです。
これで、たとえあがってしまっていたとしても、いつもの自分を取り戻すことができます。
もの足りないと思うなら第二声で続けて言えばいいのです。
③ スムーズな自己紹介のやり方
大勢の前でも同等と講義する
自己紹介は、参加者と講師との間の親近感を瞬時に作っていく上で、大変重要なものです。
特に参加者からみれば、初めて会う講師は、「一体どんな人だろう」、「どんな話をしてくれるのだろう」と好奇心いっぱいなのです。
この最初の自己紹介で、参加者とうまく感情の交流ができれば、そのあとの講演やセミナーは、不思議なくらいうまく流れていくものです。
一体感が感じられるからだと思います。
私の場合はどうしているかというと、まず経歴を伝えています。私は講師になる前は一般企業に勤務していたので、その企業で、どんな部署で、どんな経験をしてきたかを言います。
大ざっぱではありますが、経歴がわかれば講師の人となりがある程度はわかってもらえると思うからです。
次に、なぜ私がコーチになったのかを話すようにしています。
これは、私がそれまで勤めていた会社を早期退職して講師になったことと関係してきますので、毎回必ずお話するようにしています。
なぜ私がコーチになったのかというと、当時、企業にいた時に社員研修の一環として「コーチング研修」に参加したのがそもそものきっかけでした。
それまでは、コーチングという言葉も聞いたことがありませんでした。
一般的に、企業でサラリーマンを何十年とやっていると、いろいろな場面での「経験知」ができてくるものです。
このような場面では、こういう態度を取ったほうがいいだろうとか、こんな時には、このような言葉を相手にかけるべきだろうとか、はたまた、こんな時には相手をまず認めてあげることがいいだろう、という一種の人間関係上のノウハウみたいなものです。
でもこれらのノウハウは、自分の経験からそのように思っているだけで、これという確かな根拠はありませんでした。
しかし、社員研修でコーチングセミナーを受講している中で、講師をしていたコーチの話を聴いているうちに、次々に自分の経験知として使っていたノウハウに関する心理学的根拠が明らかになっていったのです。目からウロコという感覚でした。
この時、この研修は面白いと感じました。コーチングというのは、もしかすると自分に合っているのかもしれないと思い、その後、個人的にコーチ・トレーニング・プログラムを受講したのです。
私がなぜコーチになったのかという話を参加者の前ですると、参加者の表情が変わるのがわかります。
なんとなく親近感を持ってくれたように感じるのです。ですから、ここまで話すと自己紹介の時間が15分位と、少々長くなってしまいますが、いつもこのような内容で自己紹介をするようにしています。
例えば、あなたも、なぜ自分が講師になったのかを自己紹介の時に、参加者の皆さんにお伝えしていくと、きっとあなたの人となりを理解する上での参考になると思います。
あなたに親近感を抱いてくれると思います。他にも、あなたの人となりを伝えやすい経験やエピソードがあれば、それでもいいでしょう。
大切なことは、最初に講師の側から「心を開いていく」姿勢です。
講演でもセミナーでも初めて会って数時間を過ごした後、また別れていくわけですから特に個人的なことをオープンにする必要はないのかもしれません。
でもせっかく来て頂いた参加者との関係を築きたい、深めたいと思うのであれば、自分から心の内を見せていくということがとても大切だと思います。
いかがですか?少しご自分の講師姿がイメージできるようになりましたか?
次回は、さらに講師らしく見えるためのボディランゲージの方法や質問の受け方などをお伝えします。
