当然、多様化はシニア世代にも訪れている
ネット社会となる以前は、シニア層を「大きな1つのターゲット」として定めることが、ある程度は可能でした。
しかし現代の日本は、その限りではありません。インターネットや交通機関の発展、さらには平均寿命の延伸も相まって、シニアのライフスタイルに多様性が生まれています。
既に、セカンドキャリア・サードキャリア・海外移住といったことまで当然のこととなり、今まで通りの「シニアマーケティング」は通用しないものとなってきました。それどころか、今後はより一層、変化が激しくなっていくものと思われます。
人口比率の変化や多様性などを敏感に感じ取り、従来の考えに囚われない視点を持つことと、フットワークの軽さをもって臨機応変に対応していきましょう。
団塊の世代がシニアへ。加速した我が国の高齢者人口
第一次ベビーブームとして誕生した世代が高齢者(65歳以上)となると、日本の高齢化は一気に加速。平成25年の段階で人口は3186万人を突破し、総人口の約4分の1を占める高齢化社会となります。
また、2020年を迎える頃には、団塊の世代の子供「団塊ジュニア」が徐々に高齢者へと推移することもあり、総人口の約3分の1を占める超高齢化社会へ。出生率の低下も世界中の国々と比べて低く、大きな社会問題となってぶら下がっているのが現状です。
人口ピラミッドを見てみると歴然で、今後の日本の少子高齢化の深刻度が手に取るようにわかります。
しかし、悲観すべきことばかりではありません。シニア層の増加に伴い、高齢者を対象とした市場は年々拡大傾向。今後も非常に大規模な経済効果が見込まれています。シニアを対象とした新規部署や起業家等も続々と誕生し、高齢者を巻き込んだ活性化にも期待が集まっているのです。
平成25年の人口ピラミッド(総務省発表)
多様化するシニアの定義に対して、マーケティング手法にも変化が
しかし、総人口の約4分の1がターゲットとともなると、従来のシニアマーケティング手法では到底太刀打ちできなくなり、「シニアマーケティング」自体に変化が起こり始めました。特に「シニアに対する定義」は著しく変化し、様々なターゲットが存在するという前提でマーケティングを行う必要が出てきています。
シニアマーケティング研究室が発表した”ペルソナのマッピング例では、現代の高齢者をマトリックスで分割すると、縦軸を「アクティブ派」「のんびり派」、横軸を「年金依存型」「現役社会人」と分けており、いかに多種多様な高齢者で溢れているかが分かります。
今までは、高齢者を”高齢者”としか扱っていなかった方にとっては、かなり驚かれる視点ではないでしょうか。
もちろん、この限りではありませんが、潜在的に多くのターゲットがいる以上、”シニアを一括りの物”として考えたり、想像上でターゲット層を定めるのは以ての外となりました。どのようなビジネスを行うのであれ、ターゲット層が曖昧なままでは、マーケティングどころではありませんからね。この部分は、くれぐれも履き違えないように注意していただきたい点です。
今後も増加が見込まれる、シニアの「スマホユーザー」
多種多様な高齢者が存在している事実を確認しましたが、もう一点、考慮に入れるべきことがあります。それは、今後のシニア層は徐々に「スマホユーザー」へと移り変わっていくということです。
MMD研究所が60歳から79歳の男女4,2,44人を対象に行なった「2017年シニアのスマートフォン利用に関する調査」では、シニアのスマートフォン所有率は48.2%。約過半数のシニアがスマホユーザーであることがわかりました。そして当然、50代の潜在的なシニア層は、この数字を上回わっています。
過半数という数字を多いととるか少ないととるかは個人差が分かれるところではありますが、今後はスマホ所有率の高い40代・50代が徐々にシニアへと移行していくわけですから、右肩上がりで増加する見込みです。
また、社用携帯をスマートフォンに統一する企業も増加傾向にあるため、今後10年以内には、シニア層の大半が「スマホユーザー」へ移り変わっていくと判断するのが定石でしょう。
シニアもスマホユーザーが増加する
一方で、シニアのSNS利用は増えているのか?
(出典)総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
シニア層の過半数がスマホユーザーであるものの、ソニー生命保険が行った「シニアの生活意識調査」によると、スマートフォンの使い道のTOP3は「1位:通話(89.4%)」「2位:メール(85.8%)」「3位:ネット検索(74.0%)」。
年々スマホ普及率は増加しているものの、シニア層は、未だ従来の携帯電話と同様”連絡手段”として使う傾向にあるようです。
では、若者のマーケティングを行う上で欠かせないツールとなったSNSの使用率はどうでしょうか?
総務省情報通信政策研究所が行った「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によると、LINEは2012年から年々増加傾向にあり、2017年時点の50代では53.8%もの人が使用しています。一方、Facebook,Twitter,mixi等は横ばいに推移しています。
これらの調査から判明したことは、SNSを使って日常の情報発信するような高齢者は、少数派であるということ。
若者のようにSNSを通して情報共有したり、コミュニケーションを取るのは、まだ先のこととなりそうです。そのため、SNSをシニアマーケティングツールとして使うことはもちろん、ネット調査のデータとして使うには、まだ不十分であると言えます。
目指すべきは「信頼の構築」から
それでは、これからのシニアマーケティングには、どういったものが期待されているのでしょうか?間違いなく言えることは、従来通り「リアルのシニアに寄り添い、リアルの”お困りごと”を聞く」こと。つまり、「信頼構築」が肝となるのです。
「電通報」のなかで公開されている村田裕之氏(村田アオシエイツ代表取締役)と、斉藤徹氏(電通総研キュレーショングループ部長)の対談を抜粋すると、”気に入ってくれれば浮気しないのが高齢者。一度関係性をしっかりつくっていくと、生涯価値として企業の方にもきちんと恩恵がもたらされる。”と語っています。
特に、”信頼が構築された上で「長期的な関係」が築かれている”ことにも言及しており、「信頼」という二文字は、高齢者ビジネスを成功させる上で欠かせないものなのでしょう。
同じことは、周りに住む70代、80代の高齢者を見ていても分かります。彼らは、かかりつけ医や行きつけのスーパーなど、お気に入りのお店を何度もリピートする傾向があります。
そして、その動機は「医者の腕」や「野菜の品質」と言ったものではなく、「先生の対応の良さ」だったり「アルバイト店員の愛想の良さ」だったりします。
あなたも、レジのスタッフと談笑する高齢者や、病院の先生と日常会話を楽しんでいる高齢者を見たことがありませんか?その方は、間違いなく「人との関わり」を求めてリピートしている方のはずです。
高齢者の場合、人口規模と購買力は比例するようで比例しない
高齢者人口が増加し、シニアをターゲットにした市場が拡大していますが、実はシニアの購買力が活性化している訳ではありません。むしろ、私たちが想像している以上に、人口規模と購買力は比例していないのです。
日本総研が2017年1月の「Research Eye」で発表した「拡大が期待されたシニア世代の消費の伸び悩み」によると、”60代世帯の金融資産保有額は、2006年では約900万円だったのに対し、2016年には約650万円まで減少”。さらに、”60歳から85歳にかけて、1ヶ月の消費支出額が著しく減少していく点”を指摘。様々な切り口から、シニア世代における生活費以外の消費が、伸び悩やんでいる原因を取り上げています。
また、スマホ普及率だけでなく、より一層IoT・AI化が進み、超スマート社会「Society5.0」が謳われている日本。今後もさらなる機械化によって、様々な便利・快適が生み出されることが予想されます。しかし、高齢者が求めているのは、必ずしも「最新技術」ではありません。
そして、市場規模は大きいとは言うものの、潜在的ニーズが無ければ全く売れることはありません。ですから「高齢者が増加傾向にあるから、売上の見込みもある」と言うような考えは、全くの幻想であるのだと心に留めておきましょう。
まとめ:高齢者の”生の声”を重要視する
今回、様々な観点からシニアマーケティングについて紹介しましたが、年金受給年齢の引き上げ・再雇用制度などに伴い、高齢者の消費行動は、今後も予想が難しくなる傾向にあります。そして、市場規模は大きいとはいえ、シニアマーケティングを行う企業や個人にとっては、厳しい状況が続くのは間違いありません。
しかし、今回紹介した「信頼関係」の部分、特に高齢者の”生の声”は絶対に裏切りません。ですから、今後シニアマーケティングを行う上では、まず「シニアの定義」を改め直す。そして、多様化した高齢者をより細かく絞り、ターゲットをしっかりと定めてから”生の声”を集める。その上で、ターゲットに則したマーケティングを行っていきましょう。
また、我々は何かと最新技術に頼りがちですが、ビジネスの根本にあるものは「人」です。そして、高齢者ほど「人と人の絆」を大事にする傾向にあるようです。綺麗事でも何でもなく、これが真実なのです。
信頼は「お金」では買えませんし、構築するのに何年・何十年とかかるものではありますが、くれぐれも「思い込み」だけでアプローチ方法を決めないよう、注意していただければ幸いです。