ある地方の過疎化が進む村でのお話しです。
この村もご多分に漏れず人口の減少で人が減る一方で市長をはじめ住民も悩んでいます。
そこで村を活性化するために、観光客を呼び込もうという計画が実施されたのです。
観光の目玉になる場所を三ヶ所に決め、それぞれ三人のカメラマンが選定されました。
ポスターを作るにあたり、観光場所に立たせるのにふさわしいモデルが、村の人々の中から選ばれました。
ポスターのモデルは、一組は八十代を過ぎた農業一筋に生きてきた老夫婦。
二組目は実年夫婦に、次世代の三十代の夫婦とその子供たち。
三組目は八歳の子供たちとその友人たち、と三つのチームに分けられました。
チームには、美容のメイクとヘアを担当する気鋭の美容師がつきました。
カメラマンもそれぞれ違います。
実はこれは、某テレビ局の企画番組で、メインになるポイントは、美容師の「ヘア&メイク」の腕を競うのが目的のものだったのです。
美容師たちは、与えられた素人のモデルの魅力を、最大限に引き出すためにメイクを施しヘアを作り上げていきます。
八十代を超えた夫婦も、実年夫婦にしても、肌や髪の条件から見ると、最良のモデルとは言い難いものがあります。
また、子供たちも、肌はきれいでも、メイクやヘアをすることで、子供らしさを奪ってしまっては意味がなくなります。
観光場所も橋がバックだったり、田園が果てしなく広がる牧草地帯、花の咲き乱れる草原ありと、それぞれが大自然の持つ魅力に溢れ、心癒される風景です。
選ばれたモデルたちと風景をどのようにマッチさせるか、美容師たちのセンスとテクニックが競われるのです。
三人の美容師たちはモデルの顔にシッカリしたイメージを描き込んでいきます。
三組のそれぞれのポスター写真ができあがりました。
橋をバックにした老夫婦の笑顔、三世代の家族がそれぞれに働く田園風景、花の咲き乱れる中に、祭りを思わせるハレのメイクやヘアをほどこした子供たちの姿。
三枚のポスターからは、どれもが甲乙つけがたいほっとする温かいムードが、見るものに伝わってきます。
本当にこの土地へ行ってみたいと思わせるインパクトがありました。
甲乙つけがたくても、コンテストですから順位を決定しなければなりません。
専門家と、一般視聴者との総合点で、一位は八十代の老夫婦が橋をバックに笑顔で立っているものでした。私もこの結果に納得でした。
長年のあいだ土に親しみ、その顔には日焼けや年齢からくるシミやシワも少なくはありませんでした。
しかし、そうしたマイナス面がうまくメイクでカバーされ、ヘアで補われ、古き良き英国の農村の絵画に見るような、上品でモダンなスタイルに変身していました。
変身が年齢を超えて可能なことを示してくれた良い一例です。