ドイツのウィルヘルム M.ヴント
確かに、そのようにして世に出てきた速読法は、多いと思われます。
しかし、一方では、読書を科学的に研究して、その成果をもとにして、誰にでもできる普遍的な方法を編み出そうという試みも古くからなされてきました。
読書を最初に科学的研究の対象にしたのは、ドイツのウィルヘルム M.ヴントだと言われています。
ヴントは、医学を志し、生理学を研究していましたが、心理学に関心が移っていき、感覚、知覚、記憶、思考などの意識活動を、実験を通して研究する実験心理学を確立しました。
彼は、1879年、ライプチヒ大学に世界最初の心理学実験室を作ったことで知られています。
この19世紀末の時代には、ヴントのほか、パリ大学の眼科医E.ジャヴァールなど、ヨーロッパの各地の大学で、読書中の眼球運動が研究されました。
20世紀に入ると、ヴントの弟子J.M.キャッテルが研究をリードし、彼がアメリカ人であったため、研究の中心がアメリカに移りました。
ヨーロッパ、アメリカの研究で分かったこと
このころには、眼球運動を記録できるようになり、読書中の眼球の動きも分かるようになりました。
それによると、読書しているとき、眼球は図3-1のように、4種類の動きをしています。
すなわち、眼を止めてその付近の文字を読み、読み終えると、ぴょんと飛び、また眼を止めて続きの文字を読み取ります。
これを繰り返して、文章を読んでいきますが、雑念が浮かんだり、集中がそがれたりすると、理解できなくなり、少し戻ります。
そして行の下端まで読み終えると、次の行の上端にぴょんと飛びます。
この4つの動きは、順に、停留、飛越運動、逆行運動、行間運動と呼ばれています。
これらの動きの時間を測ると、停留は文章の難易度にもよって0.2〜0.6秒、飛越運動は0.02〜0.03秒で、読書の時間の9割は、停留で占められていることが分かりました。
さらに、たくさんの人を調べた結果、読書速度の速い人は、遅い人よりも停留の数が少なく、時間も短い傾向が見られました。
また、逆行運動の回数も少ないことが分かったのです。
ですから、読書速度の速い人の眼球運動を図に示すと、図のようになります。