【毎分10万文字・誰でもできる速読脳トレーニング】11.「誰でもできる」を指導するための条件とは

どうすれば、「誰でもできる」と公言して、その言葉通りに、自信を持って指導できるのか。それは、課題というより悩みでした。
2020/03/27

帰朴観天

どうすれば、「誰でもできる」と公言して、その言葉通りに、自信を持って指導できるのか。

 

それは、課題というより悩みでした。

 

確かに朴教授からはたくさんのことを教わりました。

 

彼がホテルで休む時間以外は、2ヶ月間ほとんど一緒にいましたから、速読教育についてだけでなく、彼の考え方、生き方までいろいろ話し合い、多くのことで共感もしました。

 

しかし、当時、創案者であるパク教授も持っていない、段階的に習得する教育課程を、それを学んだばかりの私が創ろうというのですから、容易でないことは明らかです。

 

「創らなければならない」という焦りだけが先行します。

 

創る力などないのですから、気持ちを無にして天を仰ぐ(帰朴観天)以外、できることはありませんでした。

① 段階的に習得できる教育課程を作ること

そんな思いで呻吟しつつ、授業やトレーニングを続けていくと、多種類のトレーニングのなかに、楽にできるものと、そうでないものがあることに気づきました。

 

トレーニングには進める順序がありますから、それと難易度を組み合わせ、さらにトレーニングの区切りと、その区切りで達成されるべき能力を見極めると、なんとなく、段階的に習得していくことができる教育課程が見えてきました。

 

モデルは「自動車教習所」にありました。

 

教習所には、誰でもできるハンドルを回す練習から始めて、少しずつ難易度の高い技能を習得していき、見極め試験のあと、路上運転講習に入っていくという明確な段階あります。

 

「速読脳」の習得にも、このような順を追ったトレーニング課程があれば、容易に教えられ、また習得できると考えたのです。

高速理解能力を開発する課程を作ること

当時の教授プログラムは、文字を高速で読み取るトレーニングが中心で、それを理解するための明確なプログラムがありませんでした。

 

そのため3万字/分程度が限度になっていました。

 

ページをめくる動作にしても、3万字/分ともなると、2秒で1回めくるわけですから、市販の書見台ではガタガタして、落ち着いて読むことができません。

 

まず、ページのめくり方と速読用の書見台を作ることから始めなければなりませんでした。

 

ある日、ページのめくり方が完成し、私は喜んで、ある受講生に教えました。

 

すると、受講生は、「こんないいめくり方を、なぜもっと早く教えないのか」と怒ってしまいました。

 

今振り返ると笑い話ですが、ちょっとショックでした。

 

バージョンアップという言葉のない時代のことですから、仕方ないことでしたが。

 

高速理解能力の開発課程を作るのには、その頃すでに講師をしていた「シルバ・メソッド瞑想法」がヒントになりました。

 

瞑想状態に入ることで高速理解ができるので、そのように案内する訓練法を考案しました。

 

これで、10万字/分の読書が可能になりました。

脳科学的に「速読脳」を明らかにすること

読書は心の中の機能ですから、本人が読めたと言っても、周囲にはなかなか信じ難いところがあります。

 

しかし、「速読脳」を開発したときには、本人に速度的にも感覚的にも大きな変化があるのですから、脳の中の理解する機能に変化が起きているはずです。

 

それを明らかにすることは、「速読脳」を理解してもらうのに役立つだけでなく、脳科学の発展に貢献することになります

しかし、当時は脳科学的知識がなく、また研究者の知り合いもおりません。

 

ところが、友人を介して、筑波大学の竹本忠雄教授を紹介していただき、竹本教授の紹介で、日本医科大学の藤木健夫先生、さらに故品川嘉也を紹介していただきました。

 

品川先生は、「速読脳」による読書は心の中での音声化がないことに、興味を持ってくださり、「一緒に研究しましょう」と仰ってくださいました。

 

それから、品川研究室通いが始まり、教室の受講生32名の協力を得て、訓練を始めたばかりの人から、「速読脳」開発者まで、いろいろな段階にある人の読書時の脳の活動を、脳波を用いて調べました。

 

その結果は、「速読脳」開発者では音声化する脳の部位(ウェルニッケ野)の活動がなくなることや、そのときの理解の脳神経回路を想定することができ、その結果は、新奇な研究結果として、1987年12月に、NHKニュースで報道されました。

 

その後も、日本医科大学(当時)の河野貴美子先生、独立行政法人情報通信研究機構の藤巻則夫先生、東京大学の植田一博教授、慶應大学(当時)の宮田裕光先生、皆川泰代先生らと共同研究を続けてきていて、大変興味深い知見を得ることができてきています。

習得率を上げること

「「速読脳開発プログラム」が、社会のなかで信頼を勝ち得るには、練習すれば到達できるプログラムになっていることが必要です。

 

「速読脳」が開発されたときの読書能力は「拾い読みや飛ばし読みをせずに、1分間に1万字以上の速度で読書できること」ですから、到達点ははっきりしています。

 

しかし、スタート地点は、一人一人異なっています。

 

一流の知識人として活躍しながら、さらに速く読みたいとして訪れる人もいれば、本を読むのが遅くて仕事に支障を来しているという人も来ます。

 

とても集中力や理解力のある人もいれば、その逆の人も来ます。

 

読書量が少なく、話のニュアンスが伝わりにくい人や、眼がすぐ疲れるという人も来ます。

 

このようなさまざまな状況にある受講生の皆さんを、「速読脳開発プログラム」の軌道に乗せるには、一方通行的な講義では困難なのです。

 

そこで、私は、受講生一人一人の訓練に入る前の状況や、訓練の進展を細かく記録する「訓練カルテ」を作りました。

 

最初は稚拙なものでしたが、やがてポイントを抑えたものに発展させることができました。

 

講師がそのカルテを見ると、受講生の課題や訓練の経過、現況などが、即座に分かるようになりました。

 

さらに、自宅での練習が十分にできる人もいれば、できない人もいます。

 

その結果、同じスタートを切っても、進度がまったく異なってきます。

 

着実に伸ばしていくには、一人一人の受講生の進度に合わせて、適切な訓練課題を与え、それぞれに訓練状況に適したアドバイスを与えることです。

 

このような指導ができるようになって、「速読脳」に到達するまでの時間はひとによって長短がありますが、確実に伸ばすことができるようになりました。

 

もちろん、このような指導ができるようになった背景には、後の章で述べるように、心身眼について、受講生が抱えている問題を解消する方法を見つけ出すことができたからです。

30年

このように文章に書くと簡単そうですが、「速読脳開発プログラム」がここまで成長するのに、30年の年月を要しました。

 

一段一段進んでいく訓練段階も、今はその段の高さがとても低くなり、ゲームを楽しむような遊び心で、能力の開発を進めることができます。

 

そのために新たに開発した訓練フォーマットは、700枚に及びます。

 

ここに至って、ようやく、パク教授から「読書能力開発プログラム」を受け継いだ者の責任を、半分果たせたような気がしています。