身体を丈夫にする!
ましてや、「速読脳開発プログラム」は、9章で述べたように集中力を開発するものですから、トレーニング自体、最大限に集中して臨まなければなりません。どこか痛いとか、痒いとかという健康状態では、その最大限の集中を引き出すことがとても難しくなります。
また、「速読脳」を開発するためには、ある程度継続的なトレーニングが必要ですから、日常生活を送りながら自宅練習を続けることのできる健康と体力が必要です。
実際、「速読脳」を開発するためのポイントをただひとつ挙げるとすると、「健康」なのです。
これまでたくさんの受講生を指導してきましたが、どんなに読書能力の高い人でも、トレーニングを継続しないと、「速読脳」を開くことができませんし、逆に、「自分は読書が苦手です」「これまであまり本を読んできていません」という人でも、時間を確保してトレーニングを継続できた人は、「速読脳」を開発できています。
「速読脳開発プログラム」のトレーニングを始めてから、「ときどき頭痛がする」「よく眠れないときがある」「よく下痢をする」「仕事中よく眠くなる」「仕事から帰ると、疲れて何もできない」「アレルギーがある」などというかたは結構おります。
しかも、それでいて、健康状態について質問すると、「特に問題ありません」「良好です」と答える人がほとんどです。このような場合、本当は健康状態に問題があるということを認識できてほしいところです。
病院に通っていて、「あなたは◯◯という病気です」とお医者さんに診断されないと、健康に問題がないと考えるのは誤りです。
病気だと診断されればもちろん健康ではありませんが、病気でなければ健康だとは言えないのです。
「半病人」「半健康」という言葉がありますが、「病気だとの診断はつかないが、健康だともいえない」という不健康状態があるのです。現代は、このような人がとても多いのです。
半健康の状態では、集中力だけでなく、仕事でも、遊びでもあらゆる面で、もともと自分に潜在している本来の能力を発揮できないのです。
ですから、「何をやってもうまくできない」とか、「自分の力はこんなものではないはずだ」「人生がなぜかうまくいかない」というかたは、まず本当に健康なのか、よく検討する必要があります。古人の言うとおり、「身体が資本」なのです。
「速読脳開発プログラム」は、自己に潜在している能力を引き出すトレーニング・プログラムですから、もし半健康状態にあるとしたら、視覚を開発するトレーニングと並行して、健康状態を改善することに取り組みます。
ですから、「速読脳開発プログラム」のトレーニングを進めていくうちに、健康状態が向上し、余裕を持ってトレーニングや生活していく体力がついてくるのです。
頭脳を開発する健康のポイント
「速読脳開発プログラム」では、姿勢を正し、呼吸を整えてトレーニングを行います。
この点は、茶道や合気道などの伝統的な芸道や武道と同じです。
その効果も同様で、脳の働きを明晰にし、身体の健康を増進します。
加えて、食生活に注意することで、「速読脳」開発の基礎を作ります。
順に説明していきましょう。
(1)姿勢
「速読脳」で読む読書が、非常に落ち着いた、深い集中で行われることは8章で説明しました。
同じように深く落着いた集中状態に入ることが要求されるトレーニングに、禅や瞑想があります。
その姿を想い浮かべて分かるように、坐禅や瞑想では、足を組んで下半身を安定させ、腰を立てて上半身を楽にします。
それを動きの中で行うのが、茶道や合気道で、下半身を安定充実させ、上半身を楽に自由にするという原則は共通しています。
このような身体の使い方は、漢方では、「上虚下実」と言いますが、健康の原則でもあります。
「速読脳開発プログラム」のトレーニングも、この原則に則っています。
読書はもちろんトレーニングも椅子に座って行われます。
このとき、両脚の開きぐあいを安定する位置にして、足の裏は全面を床におきます。お尻を後に突き出すようにして腰を立て、背骨の上端を持ち上げるようにして、背筋を伸ばします。
ただし、背を反らせたり、肩が上がらないように、上半身は楽にします。
本は、書見台に置きます。
ちょうど、江戸時代の武士が、正座して書見台に本を置いて読む姿と、上半身は同様です。
目を閉じれば、そのまま瞑想の姿勢になります。
(2)呼吸
速読するにはどのような呼吸がよいかと聞く人がいますが、読書中の呼吸をコントロールすることはしません。
というのは、呼吸をコントロールしようとすることは、呼吸を意識することですから、それだけ、読むことに集中できなくなるからです。
読むときは読むことに、見るときは見ることに集中していることが大切です。
その集中が意識しなくても自然に深いものになっているように、心身を整え、呼吸筋の使い方を身体に覚えさせておくことが、呼吸法ということになります。
その原則は、腹式呼吸で、ゆったりとした深い呼吸です。
腹式呼吸は、胸ではなくお腹を膨らませたりへこませたりする呼吸で、赤ちゃんが行っていることでも分かるように、もっとも自然な呼吸の仕方です。
それが、感覚や感情が発達し、知識が増え、思考が活発になる成長の過程で、胸式呼吸をしがちになります。
胸式呼吸は、主に胸部を膨らませたり縮ませたりする呼吸ですから、呼吸に用いる肺活量が少なく、腹部はあまり動きません。
これでは、酸素を十分に吸収できませんし、内臓の血液の循環がスムーズにいかないことになります。
現代、特に都会では、仕事で緊張しや遊びで興奮し、さらにジムに行っては身体に負荷をかけますから、ゆったりとした気持ちでリラックスすることが少ないように見受けます。
それはそのまま呼吸に影響し、呼吸が深い人でもおヘソの辺りで呼吸しています。
しかし、呼吸はもう少し下の下腹部を動かして行うのが理想的です。それが、丹田呼吸です。
「速読脳開発プログラム」では、丹田呼吸を練習します。
丹田呼吸を身につけることによって、深い集中に入ろうとするときも、気が上がらずに、落ち着いた意識を保てるようになるからです。
丹田呼吸を身につけることは、高速で読むために、とても重要です。
しかし丹田呼吸は、それだけではありません。
体質を改善し、健康を向上させるためにもとても重要なのです。
というのは、丹田呼吸では、下腹を膨らませたりへこませたりするわけですから、横隔膜を大きく動かすことになります。
それだけ呼吸が深くなるのが、丹田呼吸が健康に寄与する第一の理由です。
第二の理由は、呼吸をする度に、横隔膜から下腹部までの間にあるすべての器官、つまり胃や腸、肝臓や腎臓、膵臓や脾臓、下腹にある性に関する器官などを動かすということです。
腹腔にある器官全てを動かし、内側から圧力をかけ、血液の循環を良くします。
これは、五臓六腑をマッサージするのと同じことです。
丹田呼吸を身につけることは、24時間365日休まずにどこででもマッサージしてくれる整体師を雇うようなものです。
丹田呼吸が、身体を丈夫にするのに絶大な効果を持つことが納得できると思います。
(3)食べ物
私たちの身体は、呼吸で取り入れた酸素を別にすれば、食べたもの、飲んだもので成り立っています。
ですから、なにを食べるか、飲むかによって、体質つまり身体の丈夫さが決まることになります。そこに、飲食物の重要性があります。
「速読脳開発プログラム」では、明治時代の陸軍薬学監であった石塚左玄が創始した化学的食養生を基本に考えています。
この化学的食養生の系譜に、マクロビの創始者で有名な桜沢如一、彼に続く大森英櫻、久司道夫、自然医食の森下敬一医博などがいます。
しかし、「速読脳開発プログラム」は、食養生で病気を治そうということではありません。
精神を安定させ、集中力を強化することが目的ですから、それを妨げるものを避けることにポイントを置きます。
アレルギーがあると集中できませんから、アレルギー体質を作るものも避けます。
具体的には、次の3点です。
① 合成着色料・合成香料をできるだけ少なくする
② 白砂糖をできるだけ少なくする
③ 牛乳・乳製品をできるだけ少なくする
順に、簡単に説明していきましょう。
① 合成着色料・合成香料について
ビタミンやミネラルは別にして、食品添加物で、健康を増進するために入れられているものは皆無と言っていいでしょう。
食品を長持ちさせるため、色をきれいにして見栄えを良くするため、加工性を良くするためなどの目的で入れられていることは、周知のとおりです。
その多くは、化学的に合成されたものですから、身体にとっては異物と言えるものです。
そのため、取り過ぎると自己免疫疾患の原因になるとも疑われています。
合成着色料や合成香料がアレルギーの原因になることは、教科書にも記載されていますが、身体だけでなく、精神面でも影響することが一部のお医者さんによって指摘されています。
精神的不安定を引き起こし、いわゆるキレる原因になるとされています。
現代の食生活で、食品添加物の摂取をゼロにすることは不可能ですが、少し気をつけるだけでかなり減らすことはできます。
② 白砂糖について
私が子供の頃には、砂糖や甘いものを摂ると「虫歯になる」「骨が弱くなる」と注意されたものですが、時代が経過してビジネス中心の社会になったら、いつのまにか、「砂糖は脳の栄養である」と宣伝されるようになりました。
これは、まやかしです。
脳の栄養は砂糖ではなく、ブドウ糖です。砂糖が消化されてブドウ糖に変化するわけですが、その過程で、カルシウムを消費してしまうのです。
カルシウムは、身体のあらゆる情報伝達に関わっている極めて重要なミネラルで、カルシウムが不足していると、脳内の情報伝達も、運動神経の情報伝達も、機能が低下してうまくいかなくなります。
つまり、精神活動は不安定になり、運動能力が鈍くなるわけです。
漢方では、カルシウム主体の生薬である牡蠣(ぼれい)が昔から使われており、カルシウムは精神の安定に寄与する唯一のミネラルと言われています。
カルシウムは免疫能力にも、大きく影響します。
ラットに発がん物質を与えた実験で、カルシウムを与えると発生率が低下し、白砂糖を与えると発生率が上がるという実験結果はよく引用されますが、身体におけるカルシウムの重要性を語って余りあると言えるでしょう。
能力の開発向上を目指す方はもちろん、人生を大事に考えるなら、白砂糖や甘いもののたぐいは、できるだけ避けたいものです。
清涼飲料のなかには、500ミリリットル一本の中に、角砂糖にして数個から20個分近くの白砂糖が入っています。
その多くは、着色料や香料などたくさんの食品添加物が入っていますから、特に注意を要します。
清涼飲料を飲むなら、水かお茶にしておくのが無難です。
③ 牛乳・乳製品について
私が小学校6年のとき、飼っていた猫がお産をしてすぐに亡くなったことがありました。
まだ目が見えるか見えないかの子猫たちを何とかして育てようと、私は、スポイトで子猫たちに一生懸命牛乳を飲ませました。
ほとんどの子猫は下痢をして衰弱して亡くなり、一番身体の大きな子猫が一匹だけ生き残りましたがアトピーになりました。
今、牛乳について知ってから考えると、当たり前のことなのですが、実にかわいそうなことをしたと、思い出すたびに胸が痛みます。
「乳」というのは、実は血液と言っていいものです。
赤ちゃんはお腹の中で母親からの血液で育ちますが、誕生して外界に出たとき、その血液に替わって母親からもらうのが乳なのです。
ですからお乳のなかには、母親が作った白血球などの免疫物質や速やかに大きく育つための脂肪やタンパク質などが豊富にふくまれているのです。
大人が肉などを食べると消化酵素でアミノ酸まで分解され、自分の身体に合う蛋白質に組み立て直されて利用されます。
しかし、お乳の中に含まれているタンパク質のカゼインは、粗蛋白と呼ばれ、そのまま身体の一部として組み入れられる性質を持っています。
ですから、カゼインが豊富に含まれている「乳」は、赤ちゃんには素晴らしい飲み物なわけです。
ところが、人間の「乳」である母乳と、牛の「乳」である牛乳では、同じカゼインと分類される粗蛋白でも、性質や構造が違います。
同じく筋肉と呼ばれても、人間と牛では筋肉の性質が異なるのと同様です。
ですから、牛のカゼインが人間の組織に入ってくると、臓器移植と同じように、拒否反応が起こり、体外に排出しようとします。
これが、アレルギーです。皮膚から排泄しようとすればアトピーですし、気管支から排泄しようとすると喘息、腸壁から排泄しようとすれば、潰瘍性大腸炎やクローン病ということになります。
赤ちゃんは、腸壁がまだ未成熟ですから、牛乳や乳成分を飲ませると、アレルギーが起こりやすく、大人でも腸壁に傷があったり、腸管が栄養を吸収する選択能力に不十分なところがあると、カゼインを取り込んでしまい、アレルギーを起こすことになります。
受講生を観察すると、鼻づまりも牛乳を飲んでいる人に起こりやすい症状です。
アレルギーは、かゆみを伴いますから集中が大いに妨げられ、トレーニングに支障をきたします。
ですからできるだけ原因となる食物は避けたいわけです。
「牛乳はカルシウムをたくさん含んでいるので大いに飲むべき」という説もありますが、牛乳の摂取量の多い国に骨粗鬆症が多いという事実も明らかになっていますから、その説の妥当性はよく考えてみる必要があります。
また、牛乳が、その中に含む女性ホルモンと関係していて、女性は乳がん、男性は前立腺がんの発生と関係していることも、明らかになっています。
何事を達成するにも健康がもとですから、熟考したいものです。
近年、良い参考書が出版されていますので、紹介しておきます。
ジェイン・プラント著「乳がんと牛乳」径書房発行。