【マダム路子・自分史(第18話)】いつか必ず明かりは灯り、道は開ける

前の自分史原稿を書いた時は、新型コロナウィルスによる非常事態宣言が東京都に発令される前だつた。2020年4月7日、東京都に非常事態宣言が発令された。繁華街、劇場、スポーツクラブ、教育機関、普通の生活に照らされていた明かりが消えた。
2020/06/02

「あなたも美しくなれる」のキャッチコピー

私たちの国民性とも言われている規律、規範、「他者に対する迷惑をかけたくない」という意識の高さだろうか、感染者も死者も減少した結果、5月末日よりは少し早まり非常事態宣言解除になった。

 

しかし、コロナ問題が完全に解消されたわけではない。

 

ウィズコロナ、コロナと共にと言われ始めてもいる。

 

自粛疲れによる弊害も出てきている。

 

世界中が目に見えない強敵と闘う現状にありながら、その対策、方針の違いで、新たな人間同士の闘争が繰り広げられて行く。

 

私はこの自分史を書きながら、またしても自分が歩いてきた道を思いだした。

 

それは戦争終結後に展開されていった生活の変化だった。

 

人間同士の苛烈な闘争が終焉しても、後遺症的な苦難を乗り越えねばならなかったあの日、あの時が蘇る。

 

時を経てそんな苦難もいつしか忘れ、顔中に噴火山のようにできた「ニキビ」に悩み、女優志願への思いも断ち切られたのでいっそ死んでしまいたいとまで思い詰めた青春時代。

 

何ともノー天気で幸せだったのだろうか。

 

ごろ寝する日々。

 

「あなたも美しくなれる」というキャッチコピーに心をわしづかみにされて、大手町のビルにあるクーインチャームスクールに講座内容を聴きに行った。

 

スタイル良し、顔良しのお姉さまが素晴らしい笑顔でカリキュラム内容を説明してくれた。

 

まず、講師陣のすべてがその道の権威の著名人であることを力説された。

 

私には新派の女形の花柳章太郎しかわからなかったが。

 

主に文化的な講座だが、美容講座も組み込まれていた。

 

当講座で「ニキビ」解消ができるかもしれないと質問してみた。

 

お姉さまはにっこり笑顔で、当社のコスメで完治しますよと頼もしい返事をもらった。

クーインチャームスクールは、カネボウ化粧品が運営母体だった。

 

説明をしてくれたお姉さまの優しい笑顔と、「ニキビ」の悩みを解消し美しくなれるという希望を胸に申込みをした。

 

自分の悩みが解決されると同時に、私はごろ寝生活から脱皮した。

 

週一でスクールに通うので、空いている時間を利用して新たな稽古事を開始。

 

例えば洋裁とか英会話教室とかだった。

 

この頃の私は頭の片隅にほんの僅かではあるが、結婚という意識があったのかも知れない。

 

今でも当時の心境は定かではなく、ただ、常に何かを取得して前進したい性格はベースにあるので、自宅から歩いても通える洋裁塾や英会話塾に通うきっかけになっただけではないかとも思う。

丸尾長顕氏との出会い

私が出会った丸尾家のお手伝さんの鈴木真由美さん。

高校生の頃は、遅刻や欠席も多かったのが、チャームスクールには時間前に到着し、必ず一番前の席に陣どった。

 

どの講師の講話も楽しく興味深く、熱心に耳を傾けていた。

 

先生方も清聴態度がお気に召したのか、私にアイコンタクトしながら、講話を続けてくれることも多かった。しかし、私の本音はちがっていた。

 

講師の講話は知識を磨き、教養を高め、知的で正しい礼儀を知ることこそ「美しさ」である。

 

こうした条件を満たしている事こそ真の美人であり、学ぶべきことだというのだ。

 

「違う」。

 

違う!

 

私がここにいる理由は、「ニキビ」の解消、そして外見で判断さる美しさを自分に取り込む具体的な方法を知りたいからだ。

 

結局、このスクールでも私の悩みは解決も解消もされないのか。半分は失望感に苛まれていた。しかし、その日の講座にも、一番前の席に座った。講師は宝塚文芸部出身、日劇ミュージックホールの演出家作家・丸尾長顕氏だった。

 

 

丸尾長顕氏は、女学生のような、お世辞にもきれいとは言いがたい容姿容貌を連れ、「丸尾家のお手伝いさん」と紹介された。

 

「この人を半年で美しく変身してもらい、歌手として日劇ミュージックホールのステージに立たせます」と力強く宣言し作戦や方法も示唆してくれた。

 

脳天を貫く衝撃「これだ!私が求めていたのは」。

 

卒業パーティの日、私は川端康成さんたちと同席なさっていた丸尾長顕氏の席に挨拶に行き、思い切って「先生にご相談があるのですが」と言った。

 

先生は少しも動ぜず、有楽町の日劇の5階ミュージックホールオフイスにいらっしゃいと言って下さった。

 

このご縁が、私の魅力学の伝承につながる、人生の大転換につながっていく。

左端、私。メガネをかけた中央が丸尾長顕氏、お隣が川端康成氏。