美容師資格取得には、まず、【学科】を突破しなければならない。
筆記試験が3月と9月。実技試験は2月と8月に実施。
私は母校の模擬テストクラスで受講することに決めた。
ここ一番の試験対策にはやはり母校頼りだった。
【筆記試験の内容】
1.関係法規・制度
2.衛生管理(公衆衛生・環境衛生、感染症、衛生管理技術)
3.美容保険(人体の構造及び機能、皮膚科学)
4.美容の物理・科学
5.美容理論
私は暗記するのは得意ではない。
大嫌いだが、そんなことは言っていられない。
学科試験に通過しなければ、前には進めないのだ。
必死に勉強せざるを得ない。
自分に甘くならず真剣勝負だと言い聞かせながら、面白くもない文字を脳に送り込む。
しかし、小難しい専門科目を暗記しているうちに、知っていて良かったと思うときだってあるかもしれない。
だから、理論もしっかり覚えよう、と言う気持ちに変化していった。
専門学校時代も居眠りばかりしていた学科を、真剣に読みこむと、急に記憶力が高まったから不思議。
実際に、魅力研究家・美容家として仕事をするようになったときに、若き時代に学んだ物理科学、衛生管理などすべての知識が役に立つ場は何度もあった。
試験会場では、かなり自信があり余裕をもって問題のひとつひとつを落ち着いて書きいれることができた。
無事に東京都主催の試験に合格できた。
次は技術の実地試験だ。
インターン経験の間に学ぶべき技術力が欠落していた。
【実技試験】
第一課題「カッティング」・・・
試験の時間は20分で、スタイル構成、技術条件、留意事項、作業上のポイントなど細かな条件がたくさん出される。
第二課題「セッティング」・・・
「ワインディング」と「オールウェーブセッティング」の2種類あり、年によって課題が変り、時間は学科25分。
第二課題の2種類詳細
ワインディング・・・ パーマを作るための基礎技術
オールウェーブセッティング・・・ 「フィンガーウェーブ」「ピンカール」
実技試験は都道府県によって違った。
東京都の技術試験は、ワインディングで時間は30分。
インターンをしていれば、この技術は経験している方が多い。
私は、魅力研究家デビューするには、基礎技術よりも専門的なスタイルを作れることが重要だと思い、専科に通っていた半年。
学生時代もワインディング技術には苦戦した。
コツを飲み込むまで人一倍時間がかかった。
生徒数も少なかったおかげで、指導講師は何度も丁寧に指導してくれた。
美容専科に通う間には、一度もワインディングを施術したことは無かった。
6ヶ月のブランクは大きかった。
まず、時間内に収める事ができないのだ。ようやく時間内に巻き終わっても、分けとりやゴムのかけ方がキチンとおさまっていない。
本番のテストではこうしたことで、どんどん減点されていく。
時々焦燥感に陥り涙が出る時もあった。
この時、私は山野美容専科の教室で立ち往生してしまったことを思いだした。
山野和子先生が、その日練習するヘアスタイルの仕上げを見せてくれる。
まず、セット用のカーラーを巻くのだが、そもそもローラーを巻く技術も未熟。
したがってまともに仕上げなどできない。
それでも3か月通学している間に、何とか形を付けられるようになった。
このとき、基礎技術をしっかり学ぶべきなのだと痛感した。
美的センスには自信があったが、手先は人一倍不器用な私は強く反省した。
ピカソの後年の作品は理解しがたいところがあるが、初期の作品を見ると写実の正確さ、構図の素荒らしさに圧倒される。
技術とは「基礎」という土台の上に華麗に花も咲き実にもなる。
後悔、反省していても仕方がない。
今はワインディング技術を掌握して、資格を取得する事だと必死に取り組み、何とか合格した。
短い期間だったが、美容師免許取得経験は、私にプロになることの難しさを教えてくれた。
同時にその難しさを克服する「やればできる」という精神力と、御墨付という意味での合格を手に入れたことは大きな喜びであり、自信につながった。
私はその後、美容サロンを手広くオープンした。
1980年代に男性美容師が台頭、カリスマ美容師ブームが起こった頃、某人気サロンに査察が入った。
そこに働いていた美容師の多くが無免許だったからだ。
そのサロンは閉店となった。
美容サロンは公衆の髪や顔の命を預かる場所。
公衆衛生面からも真のプロなら国家試験は取得していなければならない。
この事件を知ったとき、若き日、自分の不器用さに泣きながらでも国家試験取得を投げ出さず良かったと胸をなでおろした。