お盆の送り火・迎え火、盆ちょうちんは「道しるべ」の役目
盆の初日と最終日には、おがらを焚く(画像出典:PhotoAC)
お盆に燃やす迎え火は、あの世からはるばる帰ってくる先祖の魂に、「あなたの家はここですよ」と示す道しるべの意味があります。
お盆は「地獄の釜の蓋が開く」と言われ、年に一度、あの世へ旅立った魂がこの世に帰ってくるとされている特別な日。
迎え火を燃やしたり盆ちょうちんを灯したりするのは、魂が道に迷わないよう導くためなのです。
迎え火に使うのは、おがらと呼ばれる麻の茎の芯の部分を乾燥させたものや、藁、ロウソクなど。
昔は素焼きの土鍋に盛って火をつけていましたが、今はアルミなど、燃えない素材の平たい皿を用いることが多いようです。
地域によっては、大きな束にしたおがらに火をつけて手に持ち、グルグルと大きく回すやり方もあり、焚き方にも地域性が見られます。
お盆の行事は全国一律ではなく、例えば浄土真宗では「魂がこの世に帰ってくる」という考え方を持たないため、迎え火・送り火や盆ちょうちんを飾るといった行為は一切行いません。
歴史上においても、後鳥羽院が「自分の死後は盆供養を営まないでほしい」と言い置いて亡くなっており、必ずしも全国一律に同じ行事をするものとして広まったわけではありませんでした。
お盆供養の行事は、奈良時代に仏教が伝来してほどなく日本に伝わりました。
最古の記録は『日本書紀』。
盂蘭盆会(うらぼんえ。お盆のこと)を指すと思しき記述が残されています(606年、推古天皇14年の項)。
江戸時代の風習を書き残した『日次紀事』(ひなみきじ)にも、7月のお盆期間に燈籠を売り始めるといった内容や、寺の門前に柱を立てて燈籠を高く懸け、期間中は毎夜火を灯す、という記述がありますから、古代からお盆の供養と火とは切っても切り離せない関係だったのでしょう。
魂も道に迷うのだと考えて道中の無事を祈った思いが、迎え火、送り火、そして盆ちょうちんといった行いから伝わってくるようですね。
お盆の期間は全国統一ではない
大分県別府市の「地獄めぐり」内で見学できる「かまど地獄」(画像出典:PhotoAC)
今では「お盆といえば8月13日〜15日」と広く認識されていますが、一部では7月の半ばに行事を行い、「七月盆」などと呼ばれています。
盆供養の風習が中国から伝わるより以前から、日本には7月の半ばに収穫祭を行う独自の習慣がありました。
そこに盂蘭盆会の行事が重なったため、「収穫時期の忙しいときに行事をするのは大変」ということで、1ヶ月ずらして8月に盆供養を行うようになったという説があります(8月に盆が定まった理由は諸説あります)。
先に述べた「地獄の釜の蓋が開く」時期も、ところによって現在の7月1日だったり、半ばだったり、旧暦の7月1日(今年は8月8日にあたる)だったりと、さまざまに言い伝えられてきました。
盆供養を月の中旬に行うようになった理由もはっきりとはしておらず、七夕の行事と盆行事が、もとはひと連なりだったと推察する研究者もいます。
昭和初期ごろの一般的な行事の流れを記したものによると、7月1日に盆の迎えの高燈籠を掲げ、七夕を終える7日頃には盆供養の準備に入る、とされています。
また、盆の「終い期間」は送り火をたいた翌日以降で、20日には二十日盆、24日は地蔵盆、30日は三十日盆と続き、8月1日の「八朔」と呼ばれる収穫祭までのいずれかの行事をもって盆を終えるものと認識されていたようです。
今でも20日以降の盆行事を行う地域が各地に残されていますので、これを読んでいる人の中にも、毎年の風習として受け継いでいる方がいらっしゃるのではないでしょうか。
盆供養の風習が伝わった頃から平安時代までは、盆供養は公事(おおやけごと)であり、7月15日の1日間だけ寺院で執り行われるならわしだったようです。
時代とともに移り変わる政治や人の心の求めを受けて、さまざまな行事や信仰とつながって民衆に広がりつつ長期化して行ったのでしょう。
日々のできごとに明確な答えを求めることが難しかった時代には、祈りや願い、信仰というものが人々の支えや暮らしの習わしとなっていった様子が想像できます。
それにしても、地獄の釜の蓋が開く日が地域でこれだけ違うとは、一体いくつ釜があるのでしょうね(笑)
お盆の期間には何をするの?
ナスの牛とキュウリの馬。それぞれに思いが込められる(画像出典:PhotoAC)
お盆期間には、初日を「精霊迎えの日」、最終日を「精霊送りの日」、その間の日を「中日」と呼び、初日までに
墓地の掃除とお墓参り、精霊棚(盆棚)づくり
を済ませておくのが通常でした。
精霊棚に飾るのは、「祖霊が早く帰ってこれるように」と馬に見立てて作られたキュウリ、「あの世に戻るときはゆっくりと」と牛に見立てて作られたナスが中心。他に、果物や野菜、飲み物、故人の好物などを供えます。
とはいえ、3日間しかお盆休みが取れない場合は、初日までにすべての準備を済ませるのは大変ですよね。
最近では供物をひとまとめにした「盆棚セット」が売られていたり、お墓掃除を代行するサービスがあったりと、盆の仕事もニーズに合わせて変化しつつあるようです。
今でも町内ごとにやぐらを組んで「盆まつり」を行う光景がところどころで見られますが、この盆まつりも、本来はこの世に帰ってきた先祖の魂を慰めるためのものでした。
私たちが毎年楽しみにしている花火も、鎮魂を願って打ち上げられていたものです。
こんなに賑やかな行事を供養として行うのは、「生きている家族と一緒に祭りを楽しんでもらって先祖の魂を慰めよう」、という意味から。
なんとも粋な計らいではないですか。
お盆の日に、先祖の話を聞いてみるのも面白い
線香花火(画像出典:PhotoAC)
長い間、供養の対象となるのは近親の祖霊とされていました。
現在のように広い範囲で祖霊供養を行うのは中世以降の変化だと考えられます。
お盆の本来の意味は亡くなった人の魂を鎮めることにありますが、仏壇を持たない家も増えている今、昔のように長期間にわたる準備と後片付けを実行するのは少々負担になるかもしれません。
百貨店やスーパーへ行けば、盆棚飾りや盆ちょうちんなどがセットになって売られている時代ですから、自分の気持ちに添うものを揃えてみるだけでも良いのではないかと思います。
もし近くに親族がいたら、先祖の話を聞かせてもらうのも楽しいイベントになるかもしれません。
自分のルーツを辿れる話には、意外な事実が隠れていたりして存外面白いものです。
コロナ禍の影響で盆まつりを実施するのも難しい状況が続いていますが、今年のお盆は先祖に思いを馳せつつ、平穏を祈って過ごしたいですね。