相続税の課税状況と相続対策
相続税は遺産相続が発生したときに課税されますが、相続財産が基礎控除額以下であれば課税されません。その基礎控除額は平成27 年1月1日以降に発生した相続等については「3,000万円+法定相続人1人につき600万円」となっています。
国税庁によると平成29 年に発生した相続のうち、相続税の課税対象となったものの割合は8.3%であり、株価の上昇等もあって平成28 年より0.2 ポイント増加しています(国税庁「平成29年分の相続税の申告状況について」より)。
特に都市部においては、今後も不動産価格の上昇が予想されることから、相続に対する事前準備を行っておく必要性はますます大きくなると思われます。
それでは、基礎控除額を超える財産をお持ちの方が、相続税の負担を抑えるためには、どのようにしたらよいでしょうか。一般的には以下のような方法で相続財産を減少させることが基本となります。
①生前贈与
相続発生前に資産を移転することで相続財産を減少させます。但し、贈与税やその他税金(不動産の場合は不動産取得税、登録免許税等)が必要となり、メリットの有無を十分に確認する必要があります。
また、贈与税の配偶者控除、教育資金の一括贈与の非課税等の特例をうまく活用することも検討してみましょう。
②生命保険への加入
被相続人が被保険者であり、かつ保険料負担者である生命保険契約の保険金は「みなし相続財産」となりますが「500万円×法定相続人の数」が非課税となりますので、有効に活用すれば、課税財産の減少につながります。
③資産ポートフォリオの組替え
相続財産の種類によって時価(通常取引される価格)と相続税計算時の財産評価額の間に差異があるものがあります。
例えば現金は、その保有額がそのまま評価額となるのに対して、自用の土地については、概ね時価の80%程度の評価額となります。よって現金から不動産に資産を組み替えることで、課税財産を小さくすることができます。
生前贈与の効果
前項で挙げた各対策のうち、生前贈与についてはどのような場合に有効なのでしょうか。相続の準備をされている方のなかには、生前贈与により本当に節税効果が得られるのか等で悩まれている方も多いと思います。
ここでは、具体的なケースでその有効性を確認していきましょう。
<試算条件>
・保有資産の規模別(ケース1~3)に全ての財産を相続により継承した場合と、半分を一括で生前贈与し、残り半分を相続により継承した場合のそれぞれについて税負担を試算します。前提は以下のとおりと致します。
・相続人(受贈者)は20歳以上の子供1人とする
・保有資産額=課税価格とし、各種税額控除等は考慮しない
・贈与に関する各種特例には該当しないものとする
・生前贈与は相続開始の3年より前に行われたものとする
【表1】試算結果
【表2】相続税・贈与税の速算表
ケース1(保有資産3千万円)の場合
保有資産が相続税の基礎控除である3600万円以下ですので、資産の全てを相続により継承したとしても相続税は課税されません。一方で半分を一括贈与した場合は贈与税が366万円課税されることになります。
この例では、節税という観点では生前贈与を行うメリットはありません。
ケース2(保有資産1億円)の場合
資産の全てを相続により継承した場合1220万円の相続税が課税されますが、一方で半分を一括贈与した場合は贈与税が約2200万円課税されるため、ケース1と同様に一括で生前贈与する税金面でのメリットはありません。
相続税額を抑えるためには、一括で贈与するのではなく贈与税が非課税となる基礎控除額110万円の範囲内で長期かつ計画的に贈与を行い、併せて前項で挙げた生前贈与以外の対策により課税価格を引き下げることが有効です。
ケース3(保有資産10億円)の場合
極めて多くの資産をもつ資産家の例です。
この場合は全ての資産を相続によって承継するより、半分を生前贈与した場合の方が有利となることが分かります。
さらに累進税率の仕組みを考慮して、一括贈与の金額を最適な水準とすることによって更なる節税効果を得ることができます。
例えば、保有資産の半分を一括で贈与する場合は、贈与税の基礎控除後の課税価格が最高税率である55%が適用される金額に至っているのに対して、相続税の課税価格は4億6400万円と50%の税率が適用される範囲に空き枠1億3600万円(=6億-4億6400万円)があります(【表2】参照)。
この空き枠を埋めるかたちで1億3600万円を生前贈与から相続に振り替えることで、この金額の適用税率を55%から50%に引き下げることができ、税金の支払額を少なくすることができます(【表3】参照)。
【表3】最適な生前贈与額による節税効果試算
まとめ:保有資産額によって対策を検討する
以上のとおり、保有資産額により生前贈与の効果が異なるため、ご自身の財産の多寡に応じて早めに対策を立てることが重要です。