【人生100年時代、趣味を楽しむ】~仙台・名古屋・神戸~地下鉄ぶらり寺社巡り

人生100年時代、シニアの膨大な自由時間を充実させるために旅行にでかけてみてはどうだろうか。中でも寺社巡りはシニアの旅行先としてお勧めだ。 雰囲気のいい寺社というと、京都や奈良に行くか、都市部から離れた郊外の山里にでも行かないといけないと考えがちだ。だが、大都市の交通機関の代表格である地下鉄の駅から徒歩で簡単にアクセスできる立派な寺社も各地にある。地元の地下鉄で、あるいは観光や仕事で行った先の地下鉄で、少し足を延ばして寺社巡りとしゃれこもう。
2019/03/09

杜の都仙台の国分寺跡

大都市の中心部を走る交通機関と言えば地下鉄だ。

 

本数が多く、一本乗りすごしてもちっとも困らない。ただ、そんな地下鉄の利用で由緒ある寺社巡りをイメージすることはまずない。それはビル街のど真ん中に大寺院があるのをイメージできないようなものだ。だが、全国には地下鉄であっさり行けるムード満点の寺社が案外ある。

 

この連載でそれらを紹介していきたい。ただ、無数の有名寺社があり、当然地下鉄でアクセスできるところも多い京都は除く。それは京都観光で皆さんもご存じのはずだからだ。また、東京にも浅草寺、増上寺、寛永寺といった大寺院があるが、これも訪れている人が多いだろうから除くことにする。

 

まず第一回目は東北最大の都市、仙台の地下鉄ですぐ行けるお寺を紹介しよう。この仙台では、かなり最近のことだが、東西線という地下鉄の新路線が開業した。駅からすぐというわけではないが、この路線の駅から徒歩で仙台城(青葉城)に行くことも可能になった。だが、東西線の価値はそれだけではない。まさに薬師堂に行くための駅、その名も薬師堂駅ができたのだ。

 

名前からしてお寺がある薬師堂駅だが、駅の地上付近は奈良時代に陸奥国の国分寺が築かれた場所だった。全国に建てられた国分寺の中でも最北のものである。近年、発掘成果を元に整備が続けられている。「なんだ、跡地か。遺跡を見てもつまらない」と思われるかもしれないが、この国分寺、まだ「生きている」お寺なのだ。

 

かつて南大門があった箇所には今も茅葺きの豪壮な仁王門(宮城県指定文化財)があり、講堂跡には巨大な重要文化財の薬師堂が建っている。この薬師堂は宮城県を代表する英雄、伊達政宗が慶長12(1607)年に上方から大工を呼び寄せて完成させたものだ。律令制の時代からほど遠い、江戸時代初期に国分寺は仙台を代表する寺院として再出発を果たしたわけだ。

 

お寺のすぐ横には白山神社もある。こちらの本殿も仙台藩の二代藩主が建てたものだ(県指定文化財)。この神社はかつては国分寺の鎮守社的な存在だったともいう。こちらも合わせて訪れたい。
仙台の寺社では、国宝の大崎八幡宮や、仙台東照宮が著名だが、地下鉄ですぐのところにも立派な国分寺がある。仙台駅から地下鉄ですぐ行けるので、旅のついでに是非訪れてほしい。

陸奥国分寺跡 地図

名古屋の地下鉄でお寺巡り

名古屋の寺社というと、どこを思い浮かべるだろう? おそらく、最初に頭にのぼるのが熱田神宮で、その次ににぎやかな大須観音が出てくるのではないか。どちらも地下鉄でアクセス可能な場所だ。しかし、まだまだ名古屋市内には地下鉄で行ける立派な寺社がある。

 

個人的に一押しなのが八事駅から徒歩数分で行ける興正寺という真言宗寺院。地下鉄からすぐアクセスできるとは思えないほどの豪華な伽藍が目の前に広がる。そして、このお寺のシンボルともいえるのが、江戸時代後期の文化5(1808)年に建てられた、重要文化財の五重塔。前近代に建てられた五重塔としては愛知県で唯一のものだ。

 

すらりと美しいその塔を見ながら、真言宗寺院らしい、にぎやかな境内を歩いていると、つい十五分ほど前まで地下鉄で移動していたこととのギャップに驚かれると思う。

 

そして、このお寺は都市部の平地にあるわけではない。境内を奥に進むと、ちょっとした山寺の気持ちが味わえるような道が続いていく。地下鉄からこうもすぐに山里にある名刹の気分を体験できるお寺はそうそうない。名古屋に行った時に、ここに寄らないのはもったいないとさえ思う。

 

まだまだ地下鉄で行ける名古屋の寺社はある。東山線の高畑駅からてくてくと、やがて荒子観音にたどり着く。前田利家に改修されたとも言われている。このお寺には室町時代後期の天文5(1536)年にできた多宝塔がある。名古屋市内最古の木造建築物で重要文化財となっている。利家が現役で活躍していた時代からあった塔がいまだに残っているわけだ。

 

また桜通線車道駅あたりから北上していくと、とてつもなく巨大な浄土宗寺院、建中寺の伽藍が見えてくる。それもそのはず、このお寺は尾張徳川氏二代の光友が父親の初代義直のために建て、それ以後、藩主の菩提寺となったところなのだ。徳川氏の威信がかかってるだけに、今でも敷地は広く、のんびり境内を歩くだけでも楽しい。徳川氏つながりでいくと、名古屋にも東照宮がある。こちらは丸の内駅から徒歩でアクセスできる。かつての建物は第二次世界大戦で焼けてしまったが、初代藩主義直の夫人の霊廟を持ってきて、現在の東照宮としている。

 

地下鉄で行ける範囲だけでも、名古屋にはいくつも古寺名刹がある。地下鉄ではないが、バスが鉄道のような高架の専用レーンを走るレアな交通機関である「ゆとりーとライン」を使えば、龍泉寺や密蔵院といった古い建物が残るお寺にもバス停から徒歩でアクセス可能だ。

八事山興正寺 地図

神戸の地下鉄で寺巡り

「地下鉄で行ける神戸のお寺は?」と尋ねられても、地元民でもぱっと答えられる人はあまりいないと思う。もちろん、三宮や元町といった繁華街のあたりにもお寺はあるし、それどころか市街地には関帝廟、ムスリムモスク、ユダヤ教会、ジャイナ教寺院が点在しており、ある種、様々な国と地域の「寺」が神戸に集まっているとさえ言えるが、寺社巡りの時にイメージするようなお寺はなさそうに思える。

 

だが、神戸は都市部の北側がすぐに山に迫っている土地で、地下鉄も郊外に伸びている。郊外に出れば、文句なしの名刹にまで地下鉄一本と徒歩でたどり着ける。地下鉄西神・山手線の西神南駅で下車すると、駅前は典型的な郊外のニュータウンという印象を受ける。駅から西に行ってもせいぜい広い公園が見えてくるだけだ。だが、この公園の中のハイキングコースを少し歩いていき、小高い丘を登るように進むと、突如として丘の向かい側の古刹が見えてくる。ここが天台宗寺院の如意寺だ。

 

中世に建てられた阿弥陀堂、文殊堂、三重塔(いずれも重要文化財)がそのまま残り、山里ののどかな空気を境内に漂わせている。筆者が訪れた時もニュータウン側では聞こえなかった鳥の鳴き声が響いていた。まさに小高い丘がお寺を見事に隠していたような地形になっている。地図を見ると、このお寺は小さな川が作った谷筋の奥に建てられたことがわかる。いわば、谷の終点の位置にあったがゆえに奇跡的に古い空気をそのまま残した古寺が残ったのだろう。

 

今度は地下鉄西神・山手線で東に進んでいく。新幹線との接続駅、新神戸駅は北側がすぐ山で、徒歩で布引の滝にも行けるようなところだが、滝から地図上の直線距離でわずか二百メートルほどのところに徳光院という、山の入り口にある臨済宗寺院がある。こんなところにも徒歩で楽々行けるのも、山が迫ったところまで地下鉄が通っていることの強みだ(お寺には登山道を使わなくても行ける)。

 

このお寺は実は川崎造船所の創立者が明治39(1906)年に建てたもので歴史もずいぶんと新しいのだが、重要文化財の中世の多宝塔をはじめ、古い寺院建築を集めているため、とても約百年の歴史しかないとは信じられない。もっとも、かつてこの地は滝とも関わりの深い真言宗の山岳寺院があったようだから、それを含めれば千年以上の歴史ということになるのかもしれない。

徳光院 地図